全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性エリテマトーデス(SLE)は、皮膚・関節・腎臓・血液・神経など、 体のさまざまな場所に炎症が起こる自己免疫疾患です。 適切な治療により、多くの方が長期にわたり生活を続けることが可能です。
1. 疾患概念(どんな病気か)
SLEは、免疫の働きが過剰になり、自分の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。 皮膚の発疹、関節炎、腎炎、貧血、白血球減少、血小板減少など、多彩な症状が組み合わさって現れます。 「全身性」という言葉の通り、一つの臓器ではなく全身が影響を受ける可能性があります。
2. 疫学的知見(どのくらいの人がかかるか)
SLEは比較的まれな病気で、人口10万人あたり数十人程度とされています。 10〜40歳代の若い女性に多く、男性の約10倍の頻度でみられます。 遺伝的な体質に、紫外線、感染症、ホルモンバランスの変化、薬剤などの要因が重なって発症すると考えられています。
3. 病態生理(体の中で何が起きているか)
SLEでは、自己抗体と呼ばれる「自分の細胞成分を標的にした抗体」が作られます。 それが血液中で「免疫複合体」となり、血管や臓器に沈着して炎症を起こします。 その結果、皮膚の発疹、関節の痛み、腎臓の炎症(ループス腎炎)、 中枢神経症状(けいれん、精神症状など)、血液細胞の減少などが生じます。
4. 症状(どんな症状が出るか)
- 頬から鼻にかけて出る紅斑(蝶形紅斑)や、日光に当たると出やすい皮疹
- 関節の痛み・はれ(リウマチに似た関節炎)
- 発熱、倦怠感、体重減少
- 尿の異常(蛋白尿・血尿)やむくみ(腎炎による)
- 貧血、白血球減少、血小板減少による疲れやすさ、感染のしやすさ、出血傾向
- 頭痛、けいれん、意識障害、気分の変動などの神経・精神症状
症状は人によって大きく異なり、軽症から重症まで幅があります。 また、よくなったり悪くなったりを繰り返すことが多い病気です。
5. 検査(どのような検査をするか)
- 血液検査: 抗核抗体、抗ds-DNA抗体などの自己抗体、炎症の程度、腎機能、血球数などを調べます。
- 尿検査: 蛋白尿や血尿の有無、腎炎の程度を評価します。
- 画像検査: 胸部X線や心エコー、CTなどで心臓・肺の状態を確認します。
- 腎生検など: ループス腎炎が疑われる場合、腎臓の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べることがあります。
これらの結果と症状を総合して、病気の活動性や臓器障害の程度を把握し、治療方針を決めます。
6. 診断(どのように診断するか)
SLEは、特徴的な皮疹、関節炎、腎炎、血液異常、免疫異常など、 複数の所見が組み合わさって現れることで診断されます。 国際的な分類基準(ACR/EULAR分類基準など)を参考にしながら、 自己抗体の種類や臓器障害の有無を総合してリウマチ専門医が診断します。 他の膠原病や感染症、薬剤性の病態との区別も重要です。
7. 主な合併症(起こりうる別の病気・障害)
- ループス腎炎(腎不全に進行することもある腎炎)
- 心膜炎・心筋炎、肺炎・胸膜炎など心肺の炎症
- 血栓症(静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞など)
- 長期ステロイド治療による骨粗しょう症・糖尿病・高血圧
- 免疫抑制薬・ステロイドによる感染症リスクの増加
定期的な検査と診察により、これらの合併症を早く見つけて治療することが大切です。
8. 治療(どのように治す・抑えるか)
- ステロイド薬: 炎症を強く抑える薬で、活動性が高いときに中心となる治療です。
- 免疫抑制薬: シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリンなどを、腎炎や中枢神経障害など重い病変に対して使用します。
- 抗マラリア薬: ヒドロキシクロロキンは皮疹や関節痛の改善、再燃の予防に有効とされます。
- 生物学的製剤: ベリムマブなど、一部の患者さんに使用される新しいタイプの薬もあります。
- 支持療法: 日光を避ける工夫、血圧・脂質・血糖の管理、骨粗しょう症予防なども重要です。
病気の勢いや臓器障害の有無に応じて薬の種類や量を調整し、 「できるだけ活動性を抑えながら、副作用を最小限にする」ことを目標とします。
9. 予後(今後の見通し)
治療法の進歩により、SLEの予後は大きく改善しており、 適切な治療と自己管理により長期間にわたって生活を続けることが可能です。 一方で、腎炎や中枢神経病変など、重い臓器障害がある場合には慎重な経過観察が必要です。
病気とうまく付き合っていくには、定期的な通院、検査、 主治医との情報共有が重要です。当科では、多職種と連携しながら長期的なサポートを行っています。