全身性硬化症(強皮症)
全身性硬化症(強皮症)は、皮膚が硬くなることを主な特徴とし、 肺や消化管、腎臓など全身の臓器にも「線維化」と呼ばれる硬さが生じる自己免疫疾患です。
1. 疾患概念(どんな病気か)
強皮症は、血管の障害と線維化(コラーゲンが過剰に沈着して組織が硬くなること)が 皮膚や内臓に起こる病気です。 手指の皮膚が張ってつっぱり、しわが減って光沢を帯びる、口が開けにくくなるなどの症状がみられます。 全身性硬化症では、皮膚だけでなく肺・心臓・消化管・腎臓にも障害が及ぶことがあります。
2. 疫学的知見(どのくらいの人がかかるか)
全身性硬化症は比較的まれな病気で、人口10万人あたり十数人程度と報告されています。 30〜60歳代の女性に多く、男性の数倍の頻度でみられます。 明確な原因は不明ですが、遺伝的素因に環境要因(シリカや有機溶剤などの曝露、喫煙など)が 影響すると考えられています。
3. 病態生理(体の中で何が起きているか)
強皮症では、細い血管が傷みやすくなり、血流が悪くなる「血管障害」と、 線維芽細胞が活性化してコラーゲンを過剰に作る「線維化」が同時に進みます。 その結果、皮膚や内臓が硬くなり、機能が低下します。 また、レイノー現象(手指が冷たく白くなる現象)に代表される血流障害が症状の背景にあります。
4. 症状(どんな症状が出るか)
- 手指や顔の皮膚が張って硬くなり、しわが減る、つまみにくい
- 冷えると指先が白→紫→赤と変色するレイノー現象
- 飲み込みにくさ、胸やけ、逆流性食道炎などの消化器症状
- 息切れ、乾いた咳(間質性肺炎や肺高血圧の可能性)
- 高血圧や急激な腎機能悪化(強皮症腎クリーゼ)
皮膚の硬さやレイノー現象が先行し、その後に内臓の症状が出てくることが多いとされています。
5. 検査(どのような検査をするか)
- 血液検査:抗核抗体、抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体などの自己抗体を調べます。
- 皮膚所見・毛細血管の観察:爪の付け根の毛細血管の変化を調べ、血管障害の程度を評価します。
- 胸部CT・肺機能検査:間質性肺炎の有無や進行度を確認します。
- 心エコー:肺高血圧や心機能障害の有無を確認します。
- 消化管造影や内視鏡検査:食道・胃・腸の動きや障害を評価します。
これらを組み合わせて、皮膚の範囲や内臓障害の程度を把握し、治療方針を決定します。
6. 診断(どのように診断するか)
特徴的な皮膚硬化(手指から前腕・体幹にかけての皮膚のつっぱり)と、 自己抗体、レイノー現象、毛細血管の異常などを総合して診断します。 国際的な分類基準(ACR/EULAR分類基準)を参考にしますが、 実際の診断は皮膚の範囲や内臓病変を含めた総合的な判断になります。
7. 主な合併症(起こりうる別の病気・障害)
- 間質性肺炎による呼吸機能低下
- 肺動脈性肺高血圧症
- 強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧と腎障害)
- 重度の逆流性食道炎や消化管運動低下
- 指先の潰瘍(血流障害による)
これらの合併症は、早期発見と治療により進行を抑えられることがあります。 定期的な検査と症状のチェックが大切です。
8. 治療(どのように治す・抑えるか)
- 血管拡張薬(カルシウム拮抗薬など):レイノー現象や指先潰瘍の予防・改善に用います。
- 免疫抑制薬:シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチルなどを、間質性肺炎などの内臓病変に対して使用します。
- 降圧薬:ACE阻害薬やARBは、強皮症腎クリーゼの治療・予防に重要です。
- プロトンポンプ阻害薬など:逆流性食道炎の治療に用います。
- リハビリ:関節の拘縮を防ぎ、日常生活動作を保つための運動療法を行います。
病気そのものを完全に止める薬はまだありませんが、合併症を早く見つけて適切に治療することで、 生活の質を保つことが可能です。
9. 予後(今後の見通し)
強皮症の予後は、皮膚硬化の範囲や内臓病変の程度によって大きく異なります。 特に肺や心臓、腎臓の障害が強い場合には注意が必要です。
定期的な検査と早期の治療介入により、重い合併症の発症リスクを減らし、 長期的な予後を改善することが期待できます。