皮膚筋炎
皮膚筋炎は、皮膚の特徴的な発疹と、肩・股関節周りの筋肉の炎症と筋力低下を主な特徴とする自己免疫性の筋炎です。 一部の患者さんでは、悪性腫瘍(がん)との関連も知られています。
1. 疾患概念(どんな病気か)
皮膚筋炎は、免疫の異常によって筋肉と皮膚に炎症が起きる病気です。 目のまわりや手の甲、肘、膝などに赤紫色の発疹が出るとともに、 階段を上がる・椅子から立ち上がる・洗濯物を干すなどの動作がしにくくなります。
2. 疫学的知見(どのくらいの人がかかるか)
皮膚筋炎はまれな疾患で、人口10万人あたり数人程度とされています。 小児と成人のどちらにも発症しますが、成人では中高年の女性にやや多い傾向があります。 成人例では、一定割合でがんを合併することが知られており、発症前後のがんのチェックが重要です。
3. 病態生理(体の中で何が起きているか)
皮膚筋炎では、筋肉の毛細血管や筋線維が自己免疫反応によって傷つき、炎症が起こります。 その結果、筋線維が壊れて筋力が低下します。 また、皮膚の血管周囲でも炎症が起き、ヘリオトロープ疹(まぶたの紫紅色の発疹)やゴットロン徴候(指の関節の赤い盛り上がり)といった特徴的な皮疹が現れます。
4. 症状(どんな症状が出るか)
- 階段を上がれない、椅子から立ち上がりにくいなどの近位筋(体幹に近い筋)の筋力低下
- ヘリオトロープ疹(まぶたの赤紫色の発疹)
- ゴットロン徴候(手の甲や指関節、肘、膝などの紅斑・盛り上がり)
- 筋肉痛、倦怠感、発熱
- 嚥下障害(飲み込みにくさ)、息切れ(呼吸筋や間質性肺炎による)
皮膚症状が先に出る場合もあれば、筋症状が目立つ場合もあり、経過もさまざまです。
5. 検査(どのような検査をするか)
- 血液検査:CK(クレアチンキナーゼ)などの筋酵素、自己抗体(抗Mi-2抗体、抗TIF1γ抗体など)を測定します。
- 筋電図:筋肉の電気的な活動を調べ、筋炎の特徴的なパターンを確認します。
- 筋生検:筋肉の一部を採取して顕微鏡で観察し、筋炎の種類を詳しく診断します。
- 画像検査:MRIで筋肉の炎症の広がりを確認し、CTやPETなどで悪性腫瘍の有無を検索します。
- 肺機能検査・胸部CT:間質性肺炎の有無・重症度を評価します。
これらの情報を組み合わせて、病気のタイプや重症度、がんの合併の有無を判定します。
6. 診断(どのように診断するか)
特徴的な皮疹と近位筋の筋力低下、筋酵素の上昇、筋電図・筋生検所見、自己抗体の有無などを総合して診断します。 皮膚症状が中心で筋力低下が目立たない「筋症状の軽いタイプ」もあり、注意深い評価が必要です。
7. 主な合併症(起こりうる別の病気・障害)
- 間質性肺炎による呼吸機能低下・息切れ
- 嚥下障害による誤嚥性肺炎
- 悪性腫瘍(消化管・肺・乳腺・婦人科がんなど)の合併
- ステロイド・免疫抑制薬による感染症や骨粗しょう症
特に成人発症例では、発症前後数年間の悪性腫瘍の検索が重要です。
8. 治療(どのように治す・抑えるか)
- ステロイド薬:筋炎のコントロールのために中心的に使用します。
- 免疫抑制薬:アザチオプリン、メトトレキサート、タクロリムス、シクロフォスファミドなどを併用してステロイド減量を目指します。
- IVIG(免疫グロブリン大量療法)や生物学的製剤:難治例に用いることがあります。
- リハビリ:筋力低下に対して、無理のない範囲での筋力トレーニングや関節可動域訓練を行います。
- 悪性腫瘍の治療:がんが見つかった場合には、その治療が筋炎の改善につながることもあります。
病気の勢いに応じて、治療を強める時期と副作用を減らす時期のバランスをとりながら、 長期的なコントロールを目指します。
9. 予後(今後の見通し)
早期から適切な治療を行えば、多くの患者さんで筋力の改善が期待できますが、 間質性肺炎や悪性腫瘍を合併する場合には予後に影響することがあります。
定期的な通院と検査により、再燃や合併症を早期に察知し、治療方針をそのつど見直していくことが重要です。