シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺などの外分泌腺が自己免疫反応により傷つき、 目や口の乾燥を主な症状とする病気です。関節痛や倦怠感、肺や腎臓の障害を伴うこともあります。
1. 疾患概念(どんな病気か)
シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺にリンパ球が集まり炎症を起こす自己免疫疾患です。 その結果、涙や唾液の分泌が減り、ドライアイやドライマウスを生じます。 関節、肺、腎臓、末梢神経など全身にも影響が及ぶことがあります。
2. 疫学的知見(どのくらいの人がかかるか)
中高年の女性に多くみられ、日本でも決してまれではない疾患です。 女性が患者さんの大部分を占め、発症年齢は40〜60歳代が中心です。 単独で発症する「原発性シェーグレン症候群」と、関節リウマチやSLEなど他の膠原病に合併する「続発性」があります。
3. 病態生理(体の中で何が起きているか)
免疫細胞(リンパ球)が涙腺・唾液腺に集まり、腺組織をゆっくりと壊していきます。 その結果、涙や唾液の分泌が低下し、乾燥症状が生じます。 また、自己抗体(抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体など)が血液中に現れ、 血管や腎臓、肺などにも炎症を起こすことがあります。
4. 症状(どんな症状が出るか)
- 目の乾き(目がゴロゴロする、しょぼしょぼする、充血しやすい)
- 口の乾き(パンやせんべいが飲み込みにくい、水をよく飲む、虫歯が増える)
- 関節痛、関節のこわばり
- 倦怠感、微熱
- 唾液腺(とくに耳下腺)の腫れ
- 肺の間質性肺炎や腎障害、末梢神経障害など全身症状
乾燥症状だけでなく、全身のさまざまな症状がゆっくり進行することがあります。
5. 検査(どのような検査をするか)
- 血液検査:自己抗体(抗SS-A/Ro抗体など)、炎症の程度、血球数、腎機能などを評価します。
- 涙の検査:シルマーテスト(ろ紙で涙の量を測定)、角結膜色素染色などを行います。
- 唾液の検査:唾液分泌量の測定、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィなどで機能を評価します。
- 小唾液腺生検:下口唇の小さな唾液腺を採取し、リンパ球浸潤の有無を顕微鏡で確認します。
- 画像検査:胸部CTや超音波で肺・唾液腺の状態を評価します。
これらの検査結果と症状を総合して診断します。
6. 診断(どのように診断するか)
ドライアイ・ドライマウスなどの乾燥症状に加え、涙・唾液の分泌低下、 自己抗体の存在、小唾液腺生検でのリンパ球浸潤などを組み合わせて診断します。 国際的な分類基準を参考にしながら、リウマチ専門医が総合的に判断します。
7. 主な合併症(起こりうる別の病気・障害)
- 虫歯や歯周病の増加、口腔カンジダ症
- 角結膜炎などの目の障害
- 間質性肺炎、腎障害、末梢神経障害
- リンパ腫(悪性リンパ腫)の発症リスク増加
特に長期罹患例ではリンパ腫発症リスクがわずかに上昇するとされており、 持続する唾液腺腫脹や全身症状には注意が必要です。
8. 治療(どのように治す・抑えるか)
- 人工涙液や点眼薬でドライアイの症状を和らげます。
- 人工唾液や口腔保湿ジェル、唾液分泌を促す薬(ムスカリン作動薬など)を使用します。
- 関節痛や全身症状に対しては、鎮痛薬や少量ステロイド、免疫抑制薬を用いることがあります。
- 間質性肺炎や腎障害など重い臓器病変には、ステロイドや免疫抑制薬を考慮します。
- 歯科・眼科との連携による定期的なケアが重要です。
乾燥症状への対策と全身合併症への治療を組み合わせ、 生活の質を維持することを目標とします。
9. 予後(今後の見通し)
乾燥症状は長く続きますが、命に関わることは少ない病気です。 ただし、一部の患者さんでは肺・腎臓・神経の障害やリンパ腫の合併が問題となることがあります。
定期的な通院と検査、眼科・歯科との連携を通じて、 合併症を早期に発見し、長期的なフォローアップを行うことが重要です。