抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、血液が固まりやすくなる自己免疫疾患で、 深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、流産などを引き起こすことがあります。
1. 疾患概念(どんな病気か)
抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの「抗リン脂質抗体」が産生され、 血栓症や妊娠合併症(流産・早産)を引き起こす自己免疫疾患です。 全身性エリテマトーデスに合併する二次性APSと、単独で起こる原発性APSがあります。
2. 疫学的知見(どのくらいの人がかかるか)
若年〜中年の女性に多く見られます。 自己抗体のみ陽性で症状のない人もおり、実際に血栓症を起こすのはその一部です。
3. 病態生理(体の中で何が起きているか)
抗リン脂質抗体が血管内皮細胞や血小板、凝固因子に結合し、 血液凝固系が活性化されることで血栓ができやすくなります。 胎盤の血流障害を通じて流産・胎児発育不全を引き起こすこともあります。
4. 症状(どんな症状が出るか)
- 深部静脈血栓症(下肢の腫れ・痛み)
- 肺塞栓症(突然の息切れ・胸痛)
- 脳梗塞・TIA(片麻痺・言語障害など)
- 繰り返す流産・早産
- 網状皮斑(皮膚の網目状色素沈着)
5. 検査(どのような検査をするか)
- 血液検査:抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント
- 凝固系検査:APTT延長など
- 画像検査:超音波、CT、MRIで血栓の有無を確認
6. 診断(どのように診断するか)
血栓症または妊娠合併症の既往に加え、 抗リン脂質抗体が少なくとも12週間以上の間隔をあけた2回以上の検査で陽性であることを確認して診断します。
7. 主な合併症(起こりうる別の病気・障害)
- 再発性の血栓症
- 多臓器不全を伴う劇症型APS(まれですが重篤)
- 心臓弁病変
8. 治療(どのように治す・抑えるか)
- 血栓症既往がある場合はワルファリンなどの抗凝固療法を長期に行います。
- 妊娠中はアスピリンとヘパリンの併用療法が用いられます。
- 全身性エリテマトーデスを合併する場合は、その治療もあわせて行います。
9. 予後(今後の見通し)
適切な抗凝固療法と妊娠管理により、血栓再発や妊娠合併症のリスクを大きく減らすことができます。 しかし、治療中断やコントロール不良の場合には再発の危険が高くなるため、 専門医による継続的なフォローが必要です。