股関節は、大腿骨(だいたいこつ)の上端にある骨頭(こっとう)と呼ばれる球状の部分が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれるソケットにはまり込むような形になっています。正常な股関節では、寛骨臼が骨頭の約4/5を包み込んでおり、このことが関節を安定させています。股関節が安定し、更に周辺の筋肉と協調することで、私たちは、脚を前後左右に自在に動かすことができます。
変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死、骨折などにより変形した関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工関節に入れ替える手術です。これにより痛みがなくなり、短縮した下肢を1-2cm程度長くすることが可能で、歩行能力が改善されます。患者さんの年齢や骨の形状、質によって、骨セメントを用いる場合とセメントを使用せずに直接骨に固定する場合とがあります。手術時間は通常2~3時間程度です。
手術の2~3週間前より患者さん自身の血液を貯血し、手術の際にその血液を輸血します(自己血輸血)。自己血輸血の適応にならない場合は、血液製剤を使用することが有ります。
症例にもよりますが、通常術後1~3日程度で車椅子移動、4~5日程度で歩行練習、2~4週間程度で退院可能です。入院中はリハビリを行い、歩行能力を始めとした日常生活動作の向上を目指します。
当院では従来の後方進入法の他に、欧米でも多く採用されている、前方進入法(Direct anterior approach:DAA)を採用しております。DAAは従来の方法に比べて切離する筋肉量が少なく体の負担が少ないこと、また人工股関節手術の欠点である脱臼が少なくなることが利点です。担当医師にご相談ください。
手術において合併症の発生は手術の成否にかかわらず一定の確率で起こりえますが、少しでもその数を減らせるように当院では以下の取り組みを行っております。
THA後の脱臼はしばしば問題になります。対策として、より大径の骨頭を使用すること、上記にあるように侵入法を工夫するとこで脱臼率の低下を目指しております。
人工物を入れるに当たり、細菌がついてしまうリスクを少しでもすくなくするため、通常の手術室よりも清潔度の高いクリーンルームの使用、やヘルメットの使用を行っています。また縫合糸は抗菌コートされたものを使用しております。
道具の進歩と侵入方法の工夫により、手術時間・出血量は低下傾向に有りますが、更に術前に止血剤を投与することでより少ない出血量で手術を行うことを目指しております。
長時間にわたる手術の影響で下肢の静脈内で血がかたまり、足が痛くなったり腫れたりすることが有ります。更にその血栓が血管内を移動し肺の血管が詰まると思い呼吸困難が出現し致死的な合併症になることが有ります。当院では予防策としてフットポンプ・弾性ストッキングの使用や抗凝固薬の術後投与を行っております。